起業や事業拡大のためには、十分な資金が不可欠です。しかし、どれくらいの融資額を目指せば良いのかわからない方も多いでしょう。
本記事では、融資額の目安を知り、成功するためのポイントをご紹介します。
創業の際の平均融資額は?
日本政策金融公庫総合研究所の過去10年間のデータを見ると、創業者に対する融資の金額は約800万円から900万円の範囲で推移しています。ただし、800万円という額は、あくまで平均であり全員が必ずしも800万円を借りるわけではありません。実際の創業融資の金額は、約300万円から1,000万円の幅があります。
融資額の平均と一般的な範囲は、融資の種類、目的、申請者の信用状況、そして金融機関の方針によって大きく異なります。個人向け融資では、小規模な消費者ローンから数万円単位で提供されることがあり、大きな目的のための融資、例えば住宅ローンや自動車ローンでは数百万円から数千万円の範囲で融資が行われます。
企業向け融資の場合、スタートアップや小規模事業向けの融資は数百万円から数千万円程度であることが多く、大企業や成長期の企業に対する融資では数億円から数十億円に上ることも珍しくありません。特に、設備投資や事業拡大のための融資は、その規模に応じて大きな金額が必要とされます。
また、政府系金融機関や特定の目的を持つ融資プログラムでは、低利で長期の返済条件のもと、特定の条件を満たす個人や企業に対して特別な融資額の範囲が設定されている場合があります。例えば、新規事業開始のための支援金や、環境改善、エネルギー効率の向上を目的としたプロジェクトに対する補助金などがそれに該当します。
融資額を決定する際には、申請者の返済能力、融資の目的と必要性、そして金融機関の貸出基準を総合的に考慮する必要があります。適切な融資額を見極めることは、無理のない返済計画を立て、金融健全性を維持する上で非常に重要です。
融資額を決定する際の考慮事項
融資額を決定する際には、複数の重要な考慮事項があります。まず、事業計画や資金使用計画を詳細に検討し、必要な資金額を正確に見積もることが重要です。このプロセスでは、プロジェクトのスコープ、予想される収益、運転資金の必要性などを評価します。
次に、返済能力を慎重に評価する必要があります。月々の返済額が収入やキャッシュフローに与える影響を考慮し、長期的な財務計画において融資の返済が現実的であるかを確認します。返済計画は、将来の収益予測と照らし合わせて、無理のない範囲で設定することが重要です。
また、利用可能な融資オプションと金融機関の条件を比較検討し、最も有利な融資条件を選択することも大切です。金利、手数料、融資の期間、返済スケジュールなど、融資契約の詳細を理解し、事業のニーズに最適な選択を行う必要があります。
最後に、将来の資金調達の可能性や事業成長に伴う追加資金の必要性も考慮に入れるべきです。初期の融資額が事業の成長を支えるには不十分である場合、追加の資金調達が必要になる可能性があります。これらの考慮事項を総合的に評価し、適切な融資額を決定することが、事業の成功に向けての重要なステップとなります。
運転資金の目安は?
商品の仕入れや従業員の給与など、事業に必要な運転資金を借りる場合、通常は月商の3ヶ月分が適切な目安とされています。月商は、前期の確定申告書や決算書などから算出されます。中小企業の月商の中央値はおおよそ125万円程度※ですので、一般的な運転資金の融資額は375万円程度が一般的と言えます。
ただし、実際の融資金額は、個々人の資産や借入状況、業種などによって異なることに留意してください。
※『中小企業白書2021』によると、中小企業の売上高の中央値は1500万円です。したがって、月商の中央値は1500万円を12で割った125万円と推定されます。
設備資金の目安は?
新しい店舗や機器Webサイト、車などの購入に必要な設備資金は、融資の審査基準において、設備の導入によって見込まれる売上が重要な要素となります。具体的には、設備導入によって見込まれる売上の3分の1、または簡易キャッシュフロー(減価償却費+純利益)の7~10倍以内が融資の上限とされています。
ただし、運転資金と同様に、設備資金の融資額も個々の資産や借入状況、業種などによって異なることに留意してください。
また、設備資金の融資は売上やキャッシュフローの「見込み」に基づくものですので、見積もりが甘いと審査で十分な結果が得られなかったり、借入後のに返済に困難が生じるリスクがあります。そのため、設備導入後の事業計画(売上予測)や設備の見積もりを適切に策定することが非常に重要です。
追加融資の場合は?
日本政策金融公庫における追加融資では、返済状況に問題がない場合、基本的には返済済みの金額と同額まで借り入れることができます。たとえば、最初に700万円の融資を受け、そのうち300万円を滞納することなく返済している場合、追加で300万円を借り入れることができる可能性が高くなります。
ただし、追加融資を受けるには、一度目の融資のうち少なくとも3分の1以上、理想的には2分の1以上を返済しておくことが望ましいとされています。ほとんど返済していない状況では、一般的には追加融資は受けられません。
また、追加融資を申請する場合は、一度目の申請から半年以上の期間を空けるようにしましょう。一度目の申請時に事業計画書や創業計画書を提出しているため、即座に追加融資を希望すると、それらの書類が不十分であると見なされ、計画性に欠けると判断される可能性があります。
ただし、事業が予想以上に順調に拡大しているなど、追加融資の根拠となる十分な利益を生み出せる場合は、融資を受けることができる場合もあります。
自己資金は多い方が良い
創業融資では、借りられる金額は自己資金額の3倍程度となります。したがって、満足のいく融資を受けるためには、自己資金をできるだけ多く確保することが最善策です。希望する融資金額によって異なりますが、創業までには少なくとも100万円以上、できれば200万円や300万円といった金額を貯金しておくことが望ましいです。
なお、日本政策金融公庫の「新創業融資」では、「創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる」ことが利用要件とされています。そのため、融資申込額は「自己資金の10倍未満」である必要があります。
例えば、「自己資金額が100万円でありながら、融資額を1,500万円に申し込んでしまう」といった状況は避けるべきです。事業計画書を作成する際には、自己資金額の3倍程度を目安とし、上限は10倍未満とすることを心掛けましょう。創業融資では自己資金額とのバランスが重要であり、自己資金をできるだけ多く準備することが望ましいです。融資を受けたい金額を考える際には、自己資金の3分の1程度を確保できるように努力しましょう。
事業計画書も融資金額決定の大切な要素に
適切な額の融資を受けるためには、説得力のある事業計画書を作成し、返済能力を金融機関にアピールすることが重要です。事業計画書によって、返済額を上回る利益を生み出せることを証明できれば、融資を受ける可能性が大幅に高まります。実際に、金融庁は銀行を監査する際に、事業計画書の作成能力を重要な要素とし、会社の信用格付けに関与するべきだと明言しています。
なお、実績のない企業でも、他社の成功事例を応用したり、創意工夫を凝らして事業計画を立てれば、高い評価を得ることが十分に可能です。
融資機関と融資額の違い
融資機関によって提供される融資額には大きな違いがあります。銀行や信用組合などの従来型金融機関は、一般的に安定した収入と良好な信用記録を持つ個人や企業に対して、中〜大規模の融資を提供する傾向にあります。これらの機関からの融資額は数百万円から数十億円に及ぶことがあり、特に企業向け融資では事業の規模や計画に応じて大きな金額が設定されます。
一方、政府系金融機関や特定目的の融資プログラムは、小規模事業者やスタートアップ、特定の社会的目的を持つプロジェクトに対して、比較的低利で小〜中規模の融資を行うことが多いです。これらの融資は、経済的な支援を必要とする特定のグループや事業に焦点を当てており、融資額は数十万円から数千万円程度に設定されることが一般的です。
また、消費者金融などのノンバンクやオンラインの金融サービス提供者は、迅速な審査プロセスと柔軟な融資条件を特徴とし、小規模融資を中心に提供しています。これらの機関からの融資は、短期間での小口資金調達に適しており、融資額は数万円から数百万円程度が多いです。
融資機関と融資額の違いを理解することは、資金調達のニーズに最適な選択肢を見つける上で重要です。各機関の特性を考慮し、事業の規模や目的、返済能力に合った融資機関を選択することが求められます。
融資額を最大化するために
融資額を最大化するためには、いくつかの戦略的なステップを踏む必要があります。まず、信用情報を改善することが重要です。定期的に信用報告書をチェックし、誤りがあれば訂正を求めることで、信用スコアを向上させることができます。また、安定した収入源を持つこと、そして負債を減らして返済能力を示すことも融資額を増やすためには不可欠です。
次に、事業計画書や資金計画をしっかりと作成し、融資の目的と使用計画を明確にすることが求められます。金融機関は、投資のリターンを重視するため、具体的で実現可能な計画を提示することで、より大きな融資額の承認を得やすくなります。
さらに、複数の金融機関から融資を検討し、それぞれの条件を比較することも重要です。金融機関によって融資の条件や利率が異なるため、適切な機関を選択することで、より有利な融資を受けることが可能になります。
最後に、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることも有効です。会計士や金融アドバイザーなどの専門家は、融資プロセスをナビゲートし、融資額を最大化するための戦略を提供することができます。これらのステップを踏むことで、融資額を最大化し、事業の成長やプロジェクトの成功につなげることができます。
まとめ
営む事業の種類によるとはいえ、事業運営には大なり小なりの資金が必要となります。融資などにより、必要となる資金を調達できなければ、いかに優れたビジネスアイデアであっても実行に移すことはできません。
しかし、相場から外れた希望融資額での申請では、審査に通るものも通らなくなります。そのため、平均となる融資額を知ることが重要です。また、運転資金や設備資金にも目安となる額があるため、しっかりと把握することが必要となります。平均額や目安を知ったうえで、しっかりと自己資金を用意し、融資審査に臨みましょう。
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